いまさらながら老後2000万円問題を考えてみる

ちょっと前の話になりますが、老後2000万円問題という金融審議会のワーキンググ ループが出した報告書が世間を騒がせました。

いや、正確には世間が勝手に間違った解釈をして騒いだと私は考えています。 報告書については国会でも取り上げられ、野党の揚げ足取りの道具に使われたような印象 がありますが、国会での議論を聞くにつけ、議員たちが無理解なままにこの報告書について 取り上げていたことにうんざりした覚えがあります。

それどころか、麻生金融担当大臣までもが本報告書を受け取らないという暴挙にでたこ とは皆さん記憶にあるのではないでしょうか。

ちなみに審議会とは金融庁設置法により次のように定められています。

金融庁設置法 (金融審議会) 第七条 金融審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。

内閣総理大臣、長官又は財務大臣の諮問に応じて国内金融に関する制度等の改善に関す る事項その他の国内金融等に関する重要事項を調査審議すること。

前号に規定する重要事項に関し、内閣総理大臣、長官又は財務大臣に意見を述べること。

以下略

つまり、大臣が専門的な知見を有する有識者に議論してもらい、意見してもらうとい うものなので、人にお願いしておいて気にくわないので報告書を受け取らないということで あり、本当に失礼極まりないと思うのです。ほんと麻生ではなくて阿呆って感じですね。

それはそれとして。。。 この報告書ですが、非常に重要なことが随所に書かれています。簡単に列記すると

 

・本報告書は高齢社会のあるべき金融サービスとはなにかについて議論し報告書として提 言したものであること。

・日本の高齢化は今後も進み、それに伴い認知症の高齢者も増加していく ・高齢世帯の収入減少傾向

・無職の高齢夫婦の平均的な世帯の 毎月の赤字額は5万円程度

・これを前提とすると20年で約1300万円、30年で約2000万円の金融資産からの 取り崩しが必要

・今後考えられる対応

(付属文書1) 高齢化社会における資産の形成・管理での心構え

(付属文書 2)高齢化社会における金融サービスのあり方

 

といった内容となっており、まさに我が国が迎えている高齢社会における金融サービスの あり方について示唆に富んだ提言がなされています。しかしながら、前述のとおり老後2 000万円が必要といった部分のみが捻じ曲げられて取り上げられ本質的な議論に至らな かったのは非常に残念なことです。

 

平均で考えてもあまり意味はない

 

当たり前の話ですが、平均値で議論しても結局それは人によるのであってあまり意味をな しません。皆さんがリタイア後 2000万円不足するかどうかは、その人の収入が年金以外に あるかどうか、どのような生活水準であるかどうかで異なってくるからです。

ちなみに報告書では 65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯で2,252 円というデータも示されており、「2,000 万円不足する」というのは完全な誤解であるとい うことがよく読めばわかります。

それより今回の報告書では、平均寿命の長期化、認知症人口の増加、金融リテラシーの重要性といった誰にでも当てはまる課題が示されており、むしろこれらの課題に対してそれ ぞれどのようにどのように取り組んでいくべきか考えていく1つのヒントになるものとな っています。

大切なことは自分のライフプランをお金とともにイメージしてみることです。自分の退職金はどれくらいか、年金の額はどれくらいか、今後大きな出費を予定しているイベントは ないか。精緻でなくてよいので大まかにイメージしてみることが大切です。

ちなみに、この報告書でも退職金の給付額を知った時期について、約3割が「退職金を受 け取るまで知らなかった」、約2割が「定年退職半年以内」と回答しているとしています。

今回の報告書はあくまでも平均的な収入支出から想定されるモデルによれば毎月5万円 程度不足することになるといっているまでで、例えば皆さんは毎月5万円不足することがわかっていてものを買い続けますか?

 

現実は違う

 

現実のデータを見てみましょう。

厚生労働省による 2018年国民生活基礎調査によると公的年金・恩給を受給している世帯 51.1%が公的年金・恩給の総所得に占める割合が 100%であると回答しています。つまり 年金受給者の約半分は年金等の受給のみで生活しているのが現実です。

 

2018年国民生活基礎調査より

一方で生活について聞いてみたところ「大変苦しい」「やや苦しい」と答えた高齢者世帯 55.1%であり、現実には受給できる年金額のながで何とかやりくりしているという姿が 浮かび上がってきます。やはりゆたかな老後を過ごすためには早いうちから自助努力によ る資産形成が重要になってくるようです。

2018年国民生活基礎調査より

 

報告書が示唆する老後への備えとは?

 

報告書では「考えらる対応」として具体的に対応策が示されています。(ここが重要)

長寿化が進行する中、資産寿命を延ばす観点から、個々人がライフステージ別に留 意すべき事項

【現役期】

・早い時期から資産形成の有効性を認識し、生活資金やいざというときに備えた資金は元本 保証されている預金等により確保しながら資産形成においては長期・積立・分散投資を基本 としながら少額でも資産形成の行動を起こす時期としています。

【リタイア期前後】

・退職金がある場合は、まず退職金について早期に情報収集し、その使途や退職金を踏まえ たライフプラン・マネープランを検討するほかリタイア後もまだ 20~30年の人生が続くこ とを前提に長期・積立・分散投資による中長期的な資産運用の継続・実行があげられるとし ています。

【高齢期】

・資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動す ることが重要。心身の衰えを見据えたマネープランの見直しが必要。また、認知・判断能力 の低下・喪失に備えて金融面の必要情報(財産目録、通帳等の保管、金融資産の管理方針等) を信頼できるものと共有しておくことが重要になってくるとしています。

人は好むと好まざるとにかかわらず認知能力が低下していくのです。特に高齢期に おける対応は自身のことだけではなく、親であるとか周りの人と共に整理しておくべき事項が多いですが、この手の話はなかなか切り出しにくいなど普段会話することがないことだけにできるだけこのような会話ができる雰囲気作りが大切ですね。

 

(参考)

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

 

平成30年 国民生活基礎調査の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa18/index.html

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